『ほうとく』平成22年 初春号から再録です。
報徳会事務局 天岩 (ブログ担当)
☆ ゜・*:.。.:*・゜・*:.。.:*・゜・*
道徳と経済は表裏一体
森 幸雄 (事務局長)
暖冬のためか十二月に入ってもイチョウの並木はまだ多くの黄色い葉を残している。それでも冬の間には全ての葉を落として幹と枝だけになるのであろう。風に押されてイチョウの葉は飛行機のように滑空して地表に落ちている。
飛行機といえば航空会社のJALは日本を象徴する大企業であるが、いまや年金問題で墜落しそうだ。年金の積み立て資金が不足している企業が増えているのは何んとも心もとない。今日の日本は政治も経済も全く先が見えず、行き詰まった状況に嵌(は)まり、すぐには脱出することができそうもない。何んとしたことであろうか。戦後驚異的な経済成長を遂げ、アジアの奇跡と言われた日本はイギリスに百年遅れて産業化に着手したが、その遅れを取り戻しイギリスを追越した。日本近代化の原動力は、日本人が昔から培ってきた高い精神力と道徳心、それに勤勉さである。
今日そのたがが緩んでしまっているようだ。
経済と道徳は一見別々のように思えるが、尊徳翁は 「道徳を忘れた経済は罪悪であり、経済を忘れた道徳は寝言である」として経済とは道徳は表裏一体のものであると教えている。道徳を忘れた経済は欧米諸国が目指す「新金融資本主義」 にも見られるようだ。欧米先進国は世界中の良きお手本になるように努めなければならぬのに、金利の安い日本から資本を調達して、発展途上国の小さい市場に投入したり引き上げたりして市場を支配し、発展途上国の弱い通貨を狙って為替を動かすなど莫大な資金を動かし、途上国から利益を貪り自国の経済を成り立たせようとする金融立国を目指している。その本質は「リーマンショック」 で姿を表わした「サブプライムローン」と言われる金融商品でトランプゲームの「パパ抜き」に似た仕組のもので目的は金抜きであろう。日本人には馴染まない仕組みである。日本は技術革新を怠らず、たえず良い物を造り世界に供給出来る技術立国であってほしいものだ。
欧米諸国は日本をどのように見ているのか、日本の没落が一九九〇年代の半ばから始まると書いた「目はまた沈む」
という本を著したエコノミスト誌前編集長のビル・エモット氏は日本の現状を 「日本社会の格差が広がりすぎ、福祉政策が必要になった。OECD (経済協力開発機構)加盟国の中で貧困層が拡大しているのは日本だけだ。最低賃金も日本はOECDで最低レベル。かつてあれほど平等社会だった日本が今や英国以上の格差社会になったのは劇的な変化だ。」 と指摘している。(日本経済新聞) 日本経済の停
滞の主因はビル・エモット氏の指摘通り格差の拡大に伴った貧困層の増加にあるようだ。橋本政権下で始まった非正規雇用の弾力化という政策の誤りだ。産業界の採算性を高めるため、賃金が低く低福祉で法的にも守られない非正規雇用やパートを容認したことに始まる。
国家の衰退の原因には道徳の低下が挙げられる。政治家や国民の道徳が低下すると国内は混乱し、経済は低迷するのは歴史に学ぶ通りである。反対に道徳が尊重され徹底すると国民相互、為政者も信頼される社会になるため効率よく経済が発展し国力が高まります。日本は真面目に技術革新を続けてきましたから製品はどんなものも一流です。しかし尊徳翁の指摘するように、勤勉性を失うと手取り早く
儲かる方法を考えがちです。例えば物造りを中心とした経済から金融で儲ける経済に移行するように。人間は困難な状況になればなるほどその解決のために一発逆転を狙いたくなるものです。大きな損失を埋めるために時間をかけて一から地道にやり直そうとするのではなく一気に危ない賭け事に手を出してしまうものです。その結果は想像に難くないでしょう。日本の経済はビル・エモット氏の言うように急速に悪化していますが賭け事の世界に手を出してはいない。「リーマンショック」「ドバイショック」まだまだ一発逆転を狙う世界は続くでしょう。全て道徳なき経済の結果は近いうちに現われてくるでしょう。
日本にとっていま最も必要な投資は教育であろう。自民党政権でも民主党政権でも全く教育投資に力が入っていないのはどうしてか、将来のための人材育成を国家の政策として、十分な奨学金制度を確立し、勉学を支援する制度を設け、税金での優遇措置も考えなければならない。資源も無く食料も輸入に頼らなければならない日本にとって優秀な人材を作ることだけが世界に互する方策である。しかし急がねばならない。成果を見られるのは三十年から五十年の歳月が必要であるから。社会混迷について翁は次のように言っている。
翁日く、国家の盛衰存亡は各々利を争ふの甚しきにあり。
富者は足る事を知らず世を救う心なく、有るが上にも求めて己が勝手のみを工夫し、天恩も知らず国恩も思はず、貧者は又何をかして己を利せんと恩へども、工夫あらざれば、村費の納むべきをとどこはり、作徳の出すべきを出さず、借りたるものを返さず、貧富共に義を忘れ願ひても祈りても、出来がたき工夫のみをして利を争ふ (夜話)

